愛犬の去勢手術、するべき?しないべき?メリット・デメリットを解説
はじめに
解説:
犬の去勢手術のメリットとデメリット
✅ 去勢手術のメリット
1. 性ホルモン関連疾患の予防
- 未去勢の雄犬では、加齢とともに前立腺肥大・精巣腫瘍・会陰ヘルニアの発症リスクが高まります。
特に10歳以上になると前立腺肥大の発生率は50%を超えるとされます(JAVMA, 2010)。 - 去勢は性ホルモン依存性疾患を予防する唯一の方法です。
精巣腫瘍のうちセルトリ細胞腫は女性化症候群の原因となるため、予防的な手術が重要です。
2. 問題行動の抑制
- マーキング・マウンティング・他犬への攻撃性は性ホルモンの影響を強く受けます。
未去勢ではこれらの行動が日常的に見られる場合があり、特に発情中の雌犬の存在が刺激となります。 - AAHAの報告によれば、性的行動の約50~70%、攻撃性は最大40%軽減されるとされています。
ただし、恐怖や回避性に基づく行動には効果が限定的であるため、事前評価が必要です。
3. 望まない繁殖の防止
- 不意の交配を防ぐことは飼い主の責任として極めて重要です。
犬同士の交配は一瞬の隙でも成立し、計画外の妊娠は飼育放棄や保護犬の増加に直結します。 - 環境省によれば、年間で約2万頭以上の犬が引き取り対象となっています(2022年)。
不要な繁殖を防ぐことは、動物福祉と社会的責任の観点からも推奨されます。
❌ 去勢手術のデメリット
1. 肥満になりやすくなる
- 去勢後は基礎代謝が約20%低下するとされており、同じ食事でも太りやすくなります。
特に運動量の少ない犬種では顕著です(WSAVA Nutrition Guidelines, 2021)。 - 肥満は関節疾患や糖尿病、皮膚病のリスク因子となります。
去勢後はフードの見直しや散歩時間の調整など、生活全体での体重管理が不可欠です。
2. 骨格形成への影響
- 特に大型犬では早期の去勢が骨の成長に影響する可能性があります。
骨端線の閉鎖が遅れることで、膝蓋骨脱臼や股関節形成不全のリスクが増します。 - Hartらの研究(PLoS ONE, 2014)では、1歳未満で去勢された大型犬における関節疾患リスクは20~25%上昇したと報告されています。
このため、大型犬では12~18ヶ月齢以降の手術が望ましいとされます。
3. 性格や行動の変化
- 一部の犬では活動性の低下や無気力傾向が見られることがあります。
性ホルモンがモチベーションやエネルギーレベルに関係しているためです。 - 恐怖・不安が強い個体では、ホルモン変動により行動悪化が起こる可能性があります。
「自信形成ホルモン」であるテストステロンの減少により、不安が助長されることがあるため、去勢前の行動評価が重要です。
まとめ
去勢手術は性ホルモン疾患の予防や問題行動の抑制、望まない繁殖の防止に有効です。
一方で肥満や骨格形成への影響、性格変化といったデメリットも存在します。
特に大型犬や恐怖傾向のある犬では実施時期や行動評価に配慮が必要です。
愛犬に最適な判断のために、獣医師との相談が重要です。
復習問題
それでは問題を解いてみましょう!
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おわりに
今回は、犬の去勢手術におけるメリットとデメリットについて詳しくご紹介しました。次回の記事では、「犬の去勢前に知っておくべきこと」をテーマに、術前準備や麻酔のリスク、術後の管理ポイントについて掘り下げます。
参考文献
- 日本獣医師会「犬と猫の避妊・去勢手術の意義」 https://nichiju.lin.gr.jp
- AVMA(American Veterinary Medical Association)Neutering Guidelines https://www.avma.org
- AAHA(American Animal Hospital Association)Canine Spay-Neuter Guidelines https://www.aaha.org
- WSAVA Global Nutrition Committee Guidelines https://wsava.org
- 小動物臨床ガイド:避妊去勢と行動学(文永堂出版)